マチヤ・テラス通信~高槻の町家を照らす~

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2014年 12月 24日

マチヤ格子戸の話~あれから一年~

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高槻300歳町家、横山家住宅の出入口の様子が、
変わったことにお気づきの方もいらっしゃると思います。
今からちょうど一年前です。
今ようやく、ちょっとお話してみます。
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「心がけたこと」
 たかが戸一対のこと、だけど、この町家は国の登録有形文化財です。
 300年近い歴史があり、まちの人に愛されている。
 心して設計しました。
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「全体」

・使う人が使いやすく、けっしてけがをしないように、とても気をつけました。

・家の人のお気持ちをよく聞きながら、その上で、歴史になじむように、
 真剣に、たのしんでデザイン。

・文化財として大切な古い部分に手を加えないように工夫しました。

・文化財の顔の一部であると同時に、現役医院の出入口であることに気をつけました。

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「部分」

・格子:お家の人のご希望は「明るくしてほしい」→格子の間隔を広くしました。
   間のびするので、2本1組の吹寄せとしました。
   高槻町家では、竪繁格子(格子子の間隔が狭い格子)が多いと考えて、
   当初、そのようなデザインをご提示していましたが、お話を伺い、思い切って変えてみました。

・袖と腰:人の手と足が当たりやすい部分は板張りとしました。
   板の幅と目地の幅もちゃんと考えます。

・取手:医院なので、だれでもが開け閉めしやすいカタチにしました。
   この取手を持って開け閉めする限り、ゼッタイに手や指をつめたりはさんだりしないよう注意。
   形象としては上弦の月。15度右へ傾けて設計しましたが、建具屋さんのご提案で工場に伺い、
   取手と下地の板の木目がそろうように気をつけて、実際に持ちやすさを試しながら、
   取り付ける位置と角度を決めました。
   木のぬくもりも感じてほしい。

・吊戸形式:実はこれが大きな特徴です。
   医院の出入口なので、お年寄りもこどもも開け閉めしやすくしたいと思いました。
   また、車いすでも出入りできるように、ということも考えました。
   だから、足元に框やレールのない、しかも、開閉操作が軽くてやさしい吊戸(ハンガードア)としました。

・開口幅:2枚の引き違い戸ですが、左右の戸の幅が異なります。これも大きな特徴です。
   外側から見て、右手の戸は普段は戸袋として固定してあります。
   左手の戸が開閉するのですが、右手の戸袋に手が当たらないところで止まるようになっています。
   左右の戸の幅を同じにすると、戸の開く幅(有効開口幅員)が少々狭くなるので、
   車いすでも問題なく通れる幅をとれるように工夫したら、左右の戸の幅が変わりました。
   ふつうと違うことをしている時には、このようになにかヒミツ(理由)があります。
   また、戸袋は留め具を外せば動くので、大きなモノの搬出入の際には、最大幅員がさらに広がります。
   (さらに、何らかの工事などの場合は、戸を外してしまえばよいわけです)

・三方枠:ここには元々、ビニルカーテンが取り付けられて、外との仕切りになっていました。
   そのカーテンを取り付けるため、スチール(鉄)枠がすでに取り付けられていたので、
   今回の建具(戸)を取付けるための木の枠は、そのスチール枠に取り付けています。
   こうすれば建物の他の部分をまったく傷めずに施工できます。
   (ハンガードアなので、床にも傷はつけない)

・転びと水勾配:実は施工上、大変だったのがこれです。今回のように吊戸だと、戸は鉛直にぶら下がります。
   建物の既存枠には多少の転び(傾斜)があり、建具との間に角度のずれが生じます。
   また、土間には水勾配が切られていて、雨水が来ても外へ流れ出るように傾いています。
   建具はまっすぐなので、土間の傾きの水上に戸を引き込んだ際に底を擦ります。
   外から見た時に建具底がナナメにカットされているのは、これへの対策です。
   大工さんと建具屋さんが工夫しながら、がんばってくれました。

   
・材と仕上:建具屋さんの提案で、吉野檜を使いました。せっかくのよい木。
   当初は塗装を施す予定でしたが、無垢のままにしました。
   施工当日、ヒノキのとてもよい香りが立ち込めました。
   鉋(かんな)の削りくずからのよい香り。今思い出しても、なんかほっとします。
   月日が経って汚れてきたら、お家の人や私たちで渋を塗ろうなどと話しています。

・大工と建具屋と設計屋:大工さん2人と親方、建具屋さん2人、設計屋1人。
   三方枠の取り付けを大工さん、建具の製作と取り付けを建具屋さん、設計・デザインを設計屋。
   今はこういう木の建具の仕事が少なくなっていて、しかも、おもしろい仕事だったので、
   それぞれが工夫し合い、刺激し合いながら、よいものをつくろうと力を合わせました。
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施工図というと大げさですが、施工部隊に示した設計図に施工時の注意点などを盛り込んだ、
最終的にこうなったという図面を作成しました。それが奇しくもちょうど1年前の12月24日。
それもあって、ふと、お話してみる気になりました。
(自分の仕事の話なので、控えてきたのですけれど)

300年近い歴史のしっぽに私たちがいることのふしぎさ。ありがたさ。
それをよく思います。
この戸も1年経って、だいぶんなじんできたかに見えます。
こうして私たちも歴史の一部になっていくのですね。

たかが1対の戸ですが、私にとっても、とても大事な仕事になりました。
ありがとうございました。

施工場所:横山家住宅(登録有形文化財)(大阪府高槻市・旧城下町)
施工日:2013年12月19日(木)
施工:長井工務店
建具:奥田建具
設計:岩崎建築研究所
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by ti-ao | 2014-12-24 05:11 | おしごと | Trackback | Comments(0)
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